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東京高等裁判所 昭和44年(ラ)665号 決定

抗告人 名栗村農業協同組合

主文

原決定を取り消す。

本件を浦和地方裁判所川越支部に差し戻す。

理由

一  本件抗告の趣旨およびその理由は、別紙記載のとおりである。

二  自己の労力を主とする性質の営業に従事する者は、その営業に若干の機械器具その他の物件を必要とする場合であつても、民事訴訟法第五七〇条第一項第三号にいう技術者・職工・労役者に該当すると解すべきであるが、これに反し、営業用機械器具等の利用を主とし自己の労力は従たる関係にあるような性質の営業に従事する者は、前記の技術者等のいずれにも該当しないと解するのが相当である。

そして、記録を調べても、本件異議申立人(債務者)である佐野隆司がこれに該当するか否かは明白でない。

三  してみれば、佐野隆司が民事訴訟法第五七〇条第一項第三号の技術者・職工・労役者のいずれかに該当することを前提としてなされた原決定は、その余の判断をするまでもなく、失当として取消を免れない。そして、佐野隆司が前記の技術者等のいずれかに該当するか否かについては、なお審理をする必要があるから、この点についての審理をさせるため、本件を原審に差し戻すのを相当と認める。

(裁判官 久利馨 三和田大士 栗山忍)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

旨の裁判を求めます。

抗告の理由

一 抗告人を債権者、相手方を債務者とする浦和地方裁判所川越支部昭和四四年(ヨ)第一一〇号有体動産仮差押命令申請事件の決定正本にもとずき、同裁判所執行官河野昇太郎は抗告人の申立により昭和四四年七月一一日別紙物件目録〈省略〉記載の物件につき仮差押執行した。

二 ところで相手方は別紙物件目録記載の物件に対する仮差押執行は債務者の営む自動車修理業の営業上、欠くべからざるものであつて、民事訴訟法第五七〇条第一項第三号に当る差押禁止物に該当する違法執行であるとして、浦和地方裁判所川越支部に民事訴訟法第五四四条により執行方法に関する異議の申立を昭和四四年七月二八日になし、同裁判所は同年七月二九日前記仮差押執行は許さない旨の決定をなした。

三 然るに前記決定は次のとおり違法な点が存在する。

〈1〉 民事訴訟法第五四四条にもとずく決定に当つては疏明では足りず証明を必要とする。(学説判例総覧強制執行法上三九七頁参照)

本件決定に当つては疏明では足りず証明を要すべきであり、これが証明方法としては、抗告人を審訊する等して相手方の生活状態、差押禁止物に該当するか否か、を明らかにすべきであるのに拘わらず、これをなさず、右の証明がなされていない。

〈2〉 民事訴訟法第五七〇条第一項第三号の解釈に誤りがある。(学説判例総覧強制執行法上八二九頁参照)

民事訴訟法第五七〇条第一項第三号は技術者・職工・労役者・穏婆の営業上欠く可からざる物であり、本条は自己の労力により営業を維持し生計を立てる者の最低生活を保護する趣旨であり機械力の使用が主となり且つ他人を雇傭する等している企業の場合には本条の保護に価いしない。

ところで本件の場合相手方はもともと運転手であり、自動車修理の技術者や職工でもなく自動車修理に関しては専ら、飯能市原市場赤沢の山崎弘光等を雇い入れ、営業を営んでいた企業主であつて、自ら労役をするものではないのである。

〈3〉 相手方の生活状況について、

〈イ〉 相手方は抗告人組合より約一億五千八百万円の債務を有する債務者であり、この借入れは抗告人組合の会計主任であつた、中山恵正と背任罪の共犯によりなされたものであつて、該事件は目下浦和地方裁判所川越支部に公判係属中であり、その弁護人として弁護士出射義夫・同江川洋・同木下良平・同河本仁之等を選任し、且つ数百万円の保釈保証金を調達し保釈中の者である。

〈ロ〉 相手方は自動車修理の専業者ではなく数名の者を雇い木材業を営んでいたものであり、現在は東京都文京区湯島三丁目一四番九号武蔵工業株式会社(木材業等をかなり手広くやつている会社)の下請をしているものである。

〈ハ〉 相手方は妻子・父母・妹夫婦・弟夫婦と同居し、相手方の妹の夫大野某名義で最近「ふそう」の四屯貨物自動車や乗用車等を買入れ、村民羨望の生活を営み、自動車修理業務に依存して生活する単なる労役者等とはいゝ得ないのである。

〈4〉 抗告人組合の現況。

抗告人組合は昭和四四年三月一四日現在の貸付金三億三千万円也、預金三億二千万円也であつて、同組合の営業を事実上停止するの止むなきに立至り、これが貸付金の中、前述のとおり相手方に対する貸付金は一億五千八百万円也を占め、これが担保として相手方が提供した物件は僅かに約二千万円程度のものに過ぎないのである。

その后組合は辛じて営業を再開してはいるものゝ預金者は全くなく、払戻しを請求するもののみであり、何時閉鎖するやも知れない現況であるのに、相手方は前述貸付金につき全く支払の誠意を示さない。

四 以上のような次第で、本件物件は差押禁止物件に該当しないので、原決定の取消を求めるため即時抗告に及んだ次第であります。

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